2019年5月16日のにんげん研究会レポート

5月16日に湯梨浜町松崎にあるゲストハウスたみでにんけんの集まりがありました。たみはたまに行っていましたが、たみにあれだけの人が集まる様は初めて目にしました。何人か見知った人がいて、一人でたみに行く時とは違う安心感がありました。

たみの奥にあるリビング。木造りの雰囲気が清冽さを感じさせます。そこで、地域学部の各ゼミ生がまばらに座り、蛇谷さんの方を向きます。蛇谷さんがこれから始まるにんげん研究に関して、過去のゼミ生の作品の動画をスクリーンに映し出しました。

ビーズ職人へのインタビューの様子を絵で表現した動画。仏師の創作活動の様子と、仏師へのインタビューの動画。ロック好きなバーのマスターへのインタビュー動画。チュニックを作り続けてきたおばあさんへのインタビューの様子を人形劇で表現した動画。色、色、色、色。という風に個性の鮮烈な作品。ぼくはどれも好きでした。だけど、眠かったです。すみません。先生たちは懐かしそうに、「新たなゼミ生の前に見ると、声色がまた違って聞こえる。」、「この空間にいないはずだけど、魂が空間に共鳴してこの空間に存在するよう。」だとおっしゃり、先輩たちがまるで昇天したかのように、謎のもの悲しさを感じました。

映像が終わって、蛇谷さんが、にんげん研究会の概要を説明しました。地域の中の記憶を記録するメディアプロジェクト。「有名ではない、自分に関わりのある人をインタビュー」。有名とは何か?という基準の問いも徹底しなければいけないとは思いましたが、しかし、メディア化するということは、そもそもどういう意義があるのか。記録化したものに触れたときに、記憶の中に刻まれた、偶然性の鮮烈さを味わうことは出来なくなるのではないかと僕は考えました。それは、つまり記録に触れる者がインタビューされている人との偶然の邂逅というとても生っぽい経験が出来ないと考えたのです。

にんけんの雰囲気は終始一貫して、たみの独特のモラトリアムな若々しくもキッと鋭い意志とそこに集まる鳥大生や先生の少し堅い感じが混濁とし、熱い何かを感じました。

そして、にんけんに参加するゼミごとのメンバー紹介とどんな人物にインタビューするか。それぞれ2周して、インタビューする人物に具体的に心当たりはあるかなど、個々のインタビューについてお互いにリファインしました。

インタビューする時、インタビューする相手によって、インタビューの手法は変わります。相手の抱く「何か」を引き出すのに、最善のインタビュー方法を考えなければいけないと思いました。録音が「記録」という意味では、安牌かと思われますが、それでは、相手は「録音されている」と思って「深い記憶」の部分を聞き出すことは難しいかもしれない。相手の「記憶」を100%共有できないのは自明ですが。僕は思いました。もしかしたら、「インタビュー」を放棄するかもしれないと。それがどういう意味かは内緒です。

とにかく発表報告はMy Style!

次回のにんげん研究会は、一人一人のインタビュー内容を発表しあいます。気になった方はぜひご参加くださいね。

宮北(鳥取大学地域学部)

地域と文化のためのメディアを考える連続講座 第3弾

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目に見えないものを、みんなで、残す。


映像、写真、本、場所など、市民のわたしたちも気軽に使えるようになったメディア。これまで、さまざまなメディアに関わる実践者による講座を通して、地域社会や日常生活の中にある"目に見えない"文化資源の探り方について考えてきました。
第三弾では、エデュケーター、ディレクター、ダンサーをお招きし、「活動/仕組み/対話」に注目して、みんなで実践することで、何が残せるのか、その方法と可能性について思考します。

講座テーマ1|廃材から見る町の文化資源
日時:12月25日(火)19:00〜21:00
会場:Y Pub&Hostel(鳥取市今町2-201)
ゲスト講師:大月ヒロ子(IDEA R LAB代表)、sungja you(Dongdaemun Design plaza エデュケーター)


美術館や博物館に属して、教育・普及活動を行う二名のエデュケーター。町の歴史、廃材、空き家、地域で暮らす人々などを「文化資源」と捉え、市民が創造的な活動をするためにのプログラム開発に取り組んでいます。今回は岡山・玉島と韓国・ソウルの事例紹介をお話しいただきます。


講座テーマ2|「震災」にみる参加型コミュニティ・アーカイブ
日時:1月21日(月)19:00〜21:00
会場:Y Pub&Hostel(鳥取市今町2-201)
ゲスト講師:甲斐賢治(せんだいメディアテーク アーティスティックディレクター)


市井の人たちが集い、写真、音声、テキスト、映像メディアで取材、記録、保存、活用までを行う「コミュニティ・アーカイブ」。東日本大震災をきっかけにせんだいメディアテーク内に開設された「3がつ11にちをわすれないためにセンター」を始めとした参加型で草の根的なメディア実践について伺います。


講座テーマ3|老人ホームで生まれた、ダンスと対話の場
日時:2月6日(水)19:00〜21:00
会場:パレットとっとり市民交流ホール(鳥取市弥生町323-1)
ゲスト講師:砂連尾 理(ダンサー・振付家


舞鶴にある老人ホームでのダンスワークショップによって作られた『とつとつダンス』。2009年から始動し、ダンス公演にとどまらず、介護現場での勉強会や人類学・哲学のカフェ活動などに展開されています。本講座では、その事例とミニワークショップをとおして、ダンスを通じたさまざまな人たちとの対話の場づくりについて考えます。


全講座講師プロフィール:
大月ヒロ子(IDEA R LAB代表)
板橋区立美術館学芸員を経て独立。展覧会の監修やコミュニケーションを誘発する学びの空間デザイン、プロダクトデザインにおいてキッズワークショップを生かす新手法の構築などを行う。著書=『新・わくわくミュージアム──子どもの創造力を育む世界の126館』『まるをさがして』『コレでなにする?──おどろき・おえかき』。共著=『クリエイティブリユース──廃材と循環するモノ・コト・ヒト』ほか。教育・空間・研究領域でグッドデザイン賞キッズデザイン賞など多数受賞。
http://www.idea-r-lab.jp/


sungja you(Dongdaemun Design Plaza エデュケーター)
イタリアデザイナー、ブルーノ・ムナーリさんから影響を受けて20年間子供のためのデザイン展示、教育、ワークショップ、教具企画とデザインの仕事を主に続けている。 現在はソウルデザイン財団教育事業チームマネージャーとして働いてる。 子供、小中高生、先生対象のデザインプログラムを企画してDDPと東大門周辺地域と協力してデザイン教育を行なっている。


甲斐賢治(せんだいメディアテーク アーティスティックディレクター)
大阪生まれ。主に地方行政の文化施策に従事、企画、運営に携わるとともに、アートやメディアにまつわる複数のNPOに所属。「個人がメディアを活用し、自ら、環境を作り出す力の創出」や、「地域文化の地産地消サイクルの起動」を目指し、社会活動としてのアート、メディア実践に取り組んできた。 2010年春より、せんだいメディアテークに所属。2011年、東日本大震災を受け市民参加・協働型の「3がつ11にちをわすれないためにセンター」や「考えるテーブル」などを展開。2016年より、さらにメディアテークの機能をまちに拡張し「アーティストのユニークな視点と仕事を地域の人材、資源、課題」につなぐ新事業「アートノード」に取り組む。2011年度芸術選奨・芸術振興部門文部科学大臣新人賞受賞。


砂連尾 理(ダンサー・振付家) 
1991年、寺田みさことダンスユニットを結成。2002 年、「TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2002」にて、「次代を担う振付家賞」(グランプリ)、「オーディエンス賞」をW 受賞。2004 年、京都市芸術文化特別奨励者。2008 年度文化庁・在外研修員としてドイツ・ベルリンに1 年滞在。近年はソロ活動を中心に、ドイツの障がい者劇団ティクバとの「Thikwa+Junkan Project」、京都・舞鶴の高齢者との「とつとつダンス」、宮城・閖上(ゆりあげ)の避難所生活者への取材が契機となった「猿とモルターレ」等を発表。著書に「老人ホームで生まれた〈とつとつダンス〉―ダンスのような、介護のような―」(晶文社
立教大学 現代心理学部・映像身体学科特任教授
http://www.osamujareo.com/


鳥取大学にんげん研究会
2012年に鳥取大学地域学部の学生らとゲストハウス&シェアハウス&カフェ「たみ」を運営するうかぶLLCで立ち上げた研究会。2013年以降、鳥取大学地域学部の複数のゼミなどが参画し、合同ゼミとしてゆるやかに活動している。地域社会の中でひとりの「にんげん」がどのように活動し、いかにして仲間を増やし環境をつくるのかについて、生活する人々の視点で、読書会やトークイベント、研究発表会などを行う。2016年から「地域と文化のためのメディアを考える連続講座」、2017年から「地域社会の記憶と文化のためのメディア・プロジェクト」を始動する。これまでの主な企画に「にんげん研究大発表会(2016〜)」、「地域と文化のためのメディアを考える連続講座(2016〜)」、「『聞く』からはじまるコミュニケーション〜「ハッピーアワー」上映会&トークショー(2018)」がある。

地域社会の記憶と文化のためのメディア・プロジェクト
主催:鳥取大学にんげん研究会・地域学部附属芸術文化センター 五島朋子
鳥取大学:人口希薄化地域における地域創生を目指した実践型教育研究の新展開(戦略3ー1)支援事業


お問い合わせ・企画:蛇谷りえ(うかぶLLC)
jatani[@]ukabullc.com、0858-41-2026(ゲストハウス&カフェ「たみ」兼用)
 
 

 

 

10月24日 にんげん研究会レポート

 10月24日に松崎のゲストハウスたみでにんげん研究会がありました。当日の参加者は鳥取大学地域学部の教員3名とうかぶLLCの蛇谷さん、そして鳥取大学地域学部の学生5名の計9名でした。実はこのうち、とある教員1名と蛇谷さん、とある学生2名は前日まで韓国に調査旅行に行っており、当日は帰国したばかりということもあり、かなりお疲れの様子でした。該当の4名の方々、お疲れさまでした!なお、韓国への調査旅行に関する報告は、後日にんげん研究会にて行われるようなので、そちらのほうも是非お楽しみに!
 今回のにんげん研究会では昨年度に引き続き今年度も取り組んでいる「地域の記憶を記録するメディアプロジェクト」のインタビュー報告と、記録の手段としてのメディアについての話し合いを行いました。今年度のメディアプロジェクトでは主に蛇谷さんと学生3名による計4名の方々について取り上げています。ひとりは、母親の介護をきっかけにビーズを使った指輪づくりを始め、今では展示会を催すほど大量のコレクションを持っているおばあさん。もうひとりはロック好きで、自分が経営するカラオケバーの店内をそのコレクションで「自分の部屋」のように飾り付けているママさん。さらに3人目は服をリフォームするおばあさん。そして僕が担当する、木彫りの大仏を掘り溜めているおじいさんが4人目です。
 それらのインタビューの内容をどのようにメディアとして記録するかが今回の本題でした。まずこの企画が発足するに至った経緯を説明します。(話の流れで僕も今回初めて知りました笑)2012年から合同ゼミとして活動している「にんげん研究会」。聞くところによるとたくさんの学生が関わり、そして卒業してきたそうです。そこにずっと関わってきた蛇谷さんは、1,2年ごとに次々と入れ替わってしまう学生たちを見て、何か本人たちがここにいた証というか、まさに「記録」を残したいと考えました。その思いが昨年度の企画に反映され、それがとても実りのある経験を生んだため今年度もそれを継続して行っています。
 「僕たちがピックアップしないと誰の記憶にも残らない地域の人々の営みや価値観。いつかは忘れ去られてしまう地域の記憶を、今ここにいて、いつかはここからいなくなる僕たちが記録する。」大学が主体になって運営しているとは思えないほど激熱で温かく、ノスタルジーあふれる企画です。
 さて今年度のメディアプロジェクトでは、記録メディアに映像と音声を用いようという話になりました。昨年度はインタビューの内容をそれぞれが手書きの文字とイラストでまとめ、その場の臨場感や自分の“主観的でもいい”素直な思いを綴りました。それを今度は実際の映像と音声で残すということで、昨年度から見て正統なステップアップのように思います。映像の構成と音声(ナレーション)の原稿作成は、インタビューを行った当事者が行います。
 次回(11月28日@ゲストハウスたみ)はそれぞれが絵コンテと原稿のアイデアを持ち寄り報告しあう予定なので、皆様ぜひお越しください!

にんげん研究大発表会2018<報告まとめ>

2018年8月4日(土)、5日(日)。立教大学生・鳥取大学生、ICU国際基督教大学)の学生、そして教員や町内外の地域の方々が集まって、暑い熱い「にんげん研究大発表会2018」が終了しました。遠方からお越しいただきありがとうございました!

1日目は、三つの分科会にわかれて学生たちの研究発表を開きました。たみの周辺にある地域の活動拠点を会場にして、社会学・芸術文化に関する研究発表(3年生はこれから取り組んでいく研究発表)をし、ディスカッションを行いました。学生が司会となり、10名ほどの小さな「場」にしたことで、密な意見交換を取る事ができました。また、活動拠点を利用する地域のみなさんが参加することで、世代間交流ができ、価値観の違いなどから、発表のあり方・届け方をどのようにすればいいか、一人一人が思考する機会となりました。

普段あまり交流のない学生たちの発表を聞くことで、社会に対してどのような思いを持っているのかを知ることができたり、普段の生活で「研究」とまで意気込んで取り組んではいないけど、学生たちの研究方法を聞いて「これもわたしの研究になるのかな?」と気づきがありました。

詳しい研究内容・分科会の様子は、学生の意志を尊重するために「学生に指導しない」というルールのもと、学生を影から見守っていた教員の方々によるレポートをご覧ください。

分科会「じぶんじしん・まち・えいぞうについて in よどや」報告 - 鳥取大学 にんげん研究会

分科会「まちづくり・おまつり・おんがくについて」in 梅や 報告 - 鳥取大学 にんげん研究会

分科会「アートについてin 汽水空港」報告 - 鳥取大学 にんげん研究会

 

その日の夜は、近くの公民館をお借りしてみんなで食事を済ませ、裏・交流プログラムとして、学生みんなで花火とスイカ割りを行いました。発表会の時と違って、顔の表情が自然でなんとも微笑ましい姿が見られました。

 

2日目の午前の部は、うかぶLLC・三宅航太郎による「松崎ドラマチック物件ツアー」と題して、たみ周辺や近隣の方々のご自宅の中を通り抜け、ぞろぞろと練り歩きました。この地域には、旧街道があって、商店と自宅と作業場が一つに繋がっている「うなぎのねどこ」と呼ばれる建築があり、都市圏ではなかなか見られない「おもしろ物件」に出会えたりもします。現在もわずかながら、商店と住居空間が同じ家庭も残っています。暮らす場所と働く場所がいっしょだから、濃密な生活文化が培われている町ともいえます。地域の人たちのそんなドラマチックな営みをしているのかが垣間見れ、大学生に好評でした。

午後の部は、会場を湯梨浜町商工会に移して、13時からは「地域に関わるための○○○をつくる〜たみの実践を事例に〜」を開きました。鳥取大学地域学部 五島朋子先生がが「にんげん研究会を通じて「たみ」を考える」、うかぶLLC・三宅と蛇谷が「たみのこれまで」を発表しました。パネリストには、元たみのシェアハウスメンバーのモリテツヤさん、田中広大さんに参加していただき、教育・研究会におけるのたみ、たみによってつくられた地域(人々とのつながり)などについて、当日参加したみなさんも交えてお話しました。しっかりとした発表と議論の場だったはずが、研究発表をとおして、6年間をふりかえって泣いたり笑ったり。ここで出会った一人一人が、これからも引き続き、地域に関わるための○○○をつくっていこうと、確認できた機会となりました。

15時からは「はじまってしまった...にんげん研究」ということで、この二日間に起きたこと、見てきたことを鳥取大学地域学部の竹内先生、稲津先生、筒井先生が発表。各分科会でどのようなことが起きていたのか、学生たちが気づけてない発見や気づきを、先生たちが鋭く視点でレシーブして言葉に残してくれました。来年はわたしも発表してみようかな、次はこういう風にしたら地域のおばあちゃんたちも参加できるよ、と参加者からのいろんなアイデアも集まって、来年も熱い大発表会になること間違いなし!?

 

あっという間の二日間。今年は学生たちとプログラムから当日準備までいっしょにできたので、鳥取大学生がホストとなっておもてなしすることができました。地域の活動拠点を会場にしたことで、拠点それぞれのコミュニティの色が出て、発表会のいい刺激となって盛り上がりました。普段あまり立ち止まって考えることのない「地域」や「文化」について学生たちと同じ目線になって考えたり、授業といえ、真剣に悩み・失敗しながら自分の関心ごとを研究する姿をみて、大人になって賢く生きてつまんない人間になった自分に気づいたりすることもありました。

振り返れば、誰もがみな通ってきたほんの一瞬で儚い「学生」時代。当日出会った学生たちをみて、いまの自分や当時の自分を投影していたように思います。次会ったときは、まったく同じ彼ら彼女らにはもう二度と会えないけど、またここで大人になった彼ら彼女らと再会できること日を楽しみに待っています。

 

2018年9月

にんげん研究会 コーディネーター 蛇谷りえ

 

映像記録:佐々木友輔(映像作家)

 

写真記録:岸野祐二郎+石原卓弥(鳥取大学写真部)

以下のサイトからアルバム写真がご覧いただけます。

photos.app.goo.gl

 

企画概要

日時:2018.8/4(土)13:00〜20:00、8/5(日)10:00〜16:00 ※開場は30分前
受付会場:たみ(鳥取県東伯郡湯梨浜町中興寺340-1)
その他イベント会場:汽水空港、梅や、よどや、旭区公民館、湯梨浜町商工会

参加費:1日1,500円(二日通しは2,000円)※学生・町内の方は無料
定員:40名(要予約/定員に達していない場合は当日受付可能)

お申し込み・お問い合わせ:
にんげん研究会(担当:蛇谷りえ)
ningenkenkyuukai*gmail.com *を@に変換してください。 

 

主催:にんげん研究会
鳥取大学地域学部五島ゼミ・佐々木ゼミ・稲津ゼミ・竹内ゼミ、立教大学社会学科小泉ゼミ、うかぶLLC)
共催:鳥取大学地域学部附属芸術文化センター
人口希薄化地域における地域創生を目指した実践型教育研究の新展開(戦略3-1)連携事業

 

分科会「じぶんじしん・まち・えいぞうについて in よどや」報告

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 松崎駅から「たみ」に至る道程の途中にある「よどや(ギャラリーよどや)」。「いきいき直売よどや」や松崎自主防災会事務局として使われ、現在では松崎ゼミナールの教室にもなっており、幅広い年代の人々に利用されている交流施設のようだ。本分科会では、村上大樹リーダーのもと、鳥取大学生4名、立教大学生4名(1名欠席)、ICU生1名の計9名の発表が「よどや」で行われた。

 発表内容の一つの傾向として、「伝統工芸」「写真」「映画」「音楽」とジャンルはさまざまだが、芸術を対象としたテーマが多かったことだ。そこで交わされた議論は以下のようなものである。一つは「観光化」の問題で、地域の芸術イベントは「観光化」によって多くの人々を招くことができるかもしれないが、他方でその土地の伝統やコミュニティの破壊につながるのではないかという議論。また、「観客」や「参加者」についての話題が上がり、近年の参加型芸術イベントの増加について意見が交わされ、K-POPライヴにおけるファンによる撮影行為、「コナン」など映画館における応援上映2.5次元ミュージカル専用劇場の登場などの事例が挙げられた。この点について、イベントの参加者は、必ずしも運営側の意図とは異なる行為で盛り上がることがあり、それらをどの程度許容すべきか、取り締まるべきかという議論が交わされた。

 発表内容のもう一つの傾向としては、「じぶん」を動機としたテーマだ。「化粧」について、「たいせつなもの」についてなど、「じぶん」を動機に研究を出発しつつも、結果として他者へと関心が向かうものが多かった。こうした傾向の中でも異彩を放ったものとして、自分の失恋経験を小説(4万字!)および脚本化し映画製作を試みるものと、Twitter裏アカウントを利用して出会った人々に取材をしてDVや不登校援助交際などの人生を聞く、という二つの発表であった。ショッキングな内容を含むため聞き手の反応が気になったが、思いのほか学生たちは共感していたのが印象的であった。後者は、岸政彦氏の『断片的なものの社会学』(朝日出版社、2015年)の「ふつう」の人々の語りを聞くという研究方法から着想を得たようだが、別の発表者にも応用可能なアプローチであるといえるだろう。

 このように今回の分科会では、「じぶん」を契機として上手く研究に没入した学生が多かったことが良かったように思う。しかしながら、「じぶん」とはなにかを探求することで、研究への手がかりが必ず見つかるとは限らない。むしろ「じぶん」とはなにかを問うことで余計に「じぶん」がわからなくなることもあり得るだろう。その場合は、たとえば「にんげん」を考える場合、むしろ「非にんげん」について考えることで逆説的に「にんげん」の輪郭が浮かび上がることもあるように、「じぶん」を切り離して「研究対象」を考えることも一つの手であると考える。

 

レポート:筒井宏樹

鳥取大学地域学部 筒井宏樹ゼミ
美術史の研究室です。ゼミ生は巨匠画家を研究する人から、鳥取や地元の美術家を研究する人がいます。また美術だけでなく、音楽、マンガ、イラスト等を研究する人もいます。さらに、卒業制作としてアニメーション、音楽発表等の実践に取り組む人もいます。現在のゼミ生は岡本正文君。絵を描いたり、パウル・クレー研究をしています。岡本君が製作したLINEスタンプ「なんでも拾うよグローブちゃん」「角張うさぎちゃん」は只今販売中。

 

分科会「まちづくり・おまつり・おんがくについて」in 梅や 報告

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 本分科会は鳥取大学の松本凌がリーダーを務め、週1のカフェ営業や買い物支援の活動をおこなう地域コミュニティの拠点「梅や」で開催された。参加者は鳥取大学生3名、立教大学生6名に、三八市実行委員会および「梅や」の運営に携わる上山梓さんを加えた10名。「梅や」の関係者や近隣住民の方々も発表を聴きに来てくださり、白熱した議論が展開された。

 全体の傾向として、自分自身の生い立ちや地元に関わる研究テーマを掲げる者が多かった。幼少期に親に連れられて毎年通った「しゃんしゃん祭り」、地元のクラブに所属して参加した「いいだ人形劇フェスタ」、親戚が益子焼の窯元を継いだことをきっかけに関心を持った益子町についての発表など、身近な伝統文化の魅力を伝えると共に、人口減少と後継者不足、行政と地域の協働がどうあるべきかといった差し迫った課題が示された。

 加えて、研究テーマである「鹿野祭」に実際に参加する、路上パフォーマンスを実施してその聴衆に聞き取り調査をおこなう、ライブハウス経営の研究をして自らのバンド活動に活かすなど、発表者自身が一人のプレイヤーとして芸術・文化活動を実践しつつ、同時並行で研究を進めていくのだというスタンスも目立った。いずれも己の身体を現場に介在させているからこその強度があり、研究を進めることの必然性や切実さもじゅうぶんに感じられた。

 しかしそうした経験や実感を「研究の言葉」に翻訳することは決して容易ではない。同じコミュニティ内ではざっくりとしたニュアンスで伝わる言葉も、文脈を共有しない相手には理解されないだろうし、思い入れを持てば持つほど冷静な対象化も困難になるだろう。

 例えば90年代から現在に到るまでのヴィジュアル系の変遷を研究する発表者は、「ヴィジュアル系」を厳密に定義づけることの不可能性を課題として挙げていた。あるいは色彩と言語、音声と言語の対応関係に関心を持つ発表者も、「白」という一語のうちに異なる様々な色彩が含まれていることを指摘していた。彼らに限らず発表者みなが研究の出発点に据えるべき、重要な視点であると言えよう。

 発表が一巡した後、地域住民の方から、どの研究も一般公開して良い水準に達していないという厳しい批判が寄せられた。本分科会が研究の成果報告ではなく、これから着手する研究テーマの発表であるという趣旨が伝わっていなかったための誤解であったが、司会を担当していた松本を中心として批判に応え、互いの認識の齟齬を埋めるべく対話を試みる学生の姿勢は立派なもので、教員の助け舟を必要としなかった。

 他方で、そうした対話が成立したのはそもそも地域住民の方々が分科会の開催に理解を示し、当日会場にまで足を運び、学生の言葉に真摯に耳を傾けて下さったからこそである。そしてその背景には、「梅や」や「たみ」が松崎という土地で時間をかけて築いてきた関係と信頼があるのだということを忘れてはならないだろう。「梅や」を運営する上での喜びや苦労、生じる課題や責任について率直に語る上山さんの言葉は、今後参与観察的な研究を進めていくであろう学生たちの心に重く響いたのではないだろうか。

 

レポート:佐々木友輔

鳥取大学地域学部 佐々木友輔ゼミ
視覚メディアと表現に関わることであれば何でも、興味・関心の赴くままに制作(作ること)と研究(書くこと)を続けられる場を理想とする研究室です。現在所属しているのは、4年の村上大樹君。視覚メディアを用いての私小説的表現について研究・実践しています。昨年度は古典的ハリウッド映画の脚本の構造を学んだり、鳥取発の地域映画制作企画に参加していました。卒業制作では短編映画を制作しています。

 

分科会「アートについてin 汽水空港」報告

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 あえて定義からはじめてみたい。「アート(英語:Art)とは、芸術・美術など間接的に社会に影響を与え得るものである」。これはグーグルで「アート」という言葉を検索すると出てくるWikipediaの定義である(強調は引用者)。わたしはアートの専門家でもなければ、この定義でいうところの「芸術・美術」を中心とする実践者でもない。しかし、分科会の議論を終えた直後、たまたまこれを読んだ時に「なんてつまらない定義なのだろう」という違和感を覚えたのだった。以下、この瞬間に感じられた「アート」の定義をめぐるギャップについて述べることで、本分科会の内容報告に代えることにしたい。

わたしの参加した分科会は、7月末にリニューアル・オープンしたばかりの古書店「汽水空港」で行われた。テーマはとてもシンプルで、ただ一言「アートについて」と題されていた。具体的にはパウル・クレーの作品分析、美術展のレジャースポット化、音楽を使ったアウトリーチ活動、震災仮設住宅でのアート実践といった、アートという言葉から想起されやすいトピックや近年の動向のみならず、ポルノグラフィ、ゲーム音楽、ファッション、防災無線等から流れるチャイムといった身近な文化の現代的な変化も話題となった。

参加者は(ほぼ)初対面同士ということもあり、全体を通して最後まで「ぎこちない」議論であったことは否定できない。しかし、迷いや葛藤も含めた自分自身の関心を言葉にして他者に伝えようとする意志と、それを受け止めようとする姿勢がその場には徐々に立ち現れていったように思える。議論の合間には汽水空港店主の森哲也さんがDIYで店舗を(再)オープンするまでの「四苦八苦」、そして書店を開く上での「幅と揺らぎ」の重要性について語って下さった場面もあった。それにより、汽水湖東郷池)を目の前に再び立ち現れたこの「空港」のみならず、真新しい本棚に並べられた古書たちから伝えられる無言の、しかし無数のメッセージも参加者に感じられる場所になっていたに違いない。

この分科会は、こうした場/場面/場所の力が確かに感じられるものだった。だからだろうか。報告者たちが「アート」をめぐって口にしていたのは、冒頭に引用した「間接的」とか(自分自身と切り離され遠く感じられる意味での)「社会」といった言葉を用いた定義では一切なかった。それは例えば「パッション」(情動)の感じられる「自己表現の場」であったり、それを他者と「共有するもの」であるという。これは「自己」が関与する意味で何よりも「直接的」であり、かつ「共有する」営みを伴うという意味で、「社会」というよりも「共同体」や「共同性」という次元に限りなく接近している定義のように思える。

ここには冒頭のWikipediaの定義を反転させたような地点に、参加者の観点が置かれていることが窺えるだろう。もちろん、それもひとつにまとめられるほど、議論内容が明確になっていたわけではない。だが、限られた時間とはいえ、参加者間で「アートとは、自分自身を『出力(アウトプット)』する方法をtryする場所である」、いうオリジナルな定義の萌芽にまで議論が至れたことの意味は極めて大きいとわたしには思われる。なぜなら、この定義は、この分科会そのものが何だったのかという場(場面/場所)の理解にも結び付くのみならず、近代を通じて「芸術・美術など」として専門化され、自らの手から遠くなった「アート」を、ふたたび自分自身(=わたし)の位置から直接的に捉えなおし、他者ともに実践しなおす技法の萌芽としても考えられるからである。だが、当日に議論できなかったことの課題も多くあるだろう。それは報告者の卒業研究や来年の?「にんげん研究大発表会」での議論に期待したい。

 

レポート:稲津秀樹

鳥取大学地域学部 稲津秀樹ゼミ
新任教員なので、ゼミも1年目です。卒業生はまだいないので、ゼミ生とテーマやフィールドを耕している状態です。担当者自身は昨年、研究仲間と『社会的分断を越境する―他者と出会いなおす想像力』という本を出しました(青弓社2017年)。構造化された社会問題を生きる当事者/他者の「しんどさ」と向き合い、それでも共に生きようとする人びとの意志や実践、表現や想像力を学び続けたいと思っています。