分科会「まちづくり・おまつり・おんがくについて」in 梅や 報告

f:id:ningenkenkyuukai:20181004124228j:plain

f:id:ningenkenkyuukai:20181003164334j:plain

f:id:ningenkenkyuukai:20181003164342j:plain

f:id:ningenkenkyuukai:20181003164350j:plain

f:id:ningenkenkyuukai:20181003164359j:plain

 本分科会は鳥取大学の松本凌がリーダーを務め、週1のカフェ営業や買い物支援の活動をおこなう地域コミュニティの拠点「梅や」で開催された。参加者は鳥取大学生3名、立教大学生6名に、三八市実行委員会および「梅や」の運営に携わる上山梓さんを加えた10名。「梅や」の関係者や近隣住民の方々も発表を聴きに来てくださり、白熱した議論が展開された。

 全体の傾向として、自分自身の生い立ちや地元に関わる研究テーマを掲げる者が多かった。幼少期に親に連れられて毎年通った「しゃんしゃん祭り」、地元のクラブに所属して参加した「いいだ人形劇フェスタ」、親戚が益子焼の窯元を継いだことをきっかけに関心を持った益子町についての発表など、身近な伝統文化の魅力を伝えると共に、人口減少と後継者不足、行政と地域の協働がどうあるべきかといった差し迫った課題が示された。

 加えて、研究テーマである「鹿野祭」に実際に参加する、路上パフォーマンスを実施してその聴衆に聞き取り調査をおこなう、ライブハウス経営の研究をして自らのバンド活動に活かすなど、発表者自身が一人のプレイヤーとして芸術・文化活動を実践しつつ、同時並行で研究を進めていくのだというスタンスも目立った。いずれも己の身体を現場に介在させているからこその強度があり、研究を進めることの必然性や切実さもじゅうぶんに感じられた。

 しかしそうした経験や実感を「研究の言葉」に翻訳することは決して容易ではない。同じコミュニティ内ではざっくりとしたニュアンスで伝わる言葉も、文脈を共有しない相手には理解されないだろうし、思い入れを持てば持つほど冷静な対象化も困難になるだろう。

 例えば90年代から現在に到るまでのヴィジュアル系の変遷を研究する発表者は、「ヴィジュアル系」を厳密に定義づけることの不可能性を課題として挙げていた。あるいは色彩と言語、音声と言語の対応関係に関心を持つ発表者も、「白」という一語のうちに異なる様々な色彩が含まれていることを指摘していた。彼らに限らず発表者みなが研究の出発点に据えるべき、重要な視点であると言えよう。

 発表が一巡した後、地域住民の方から、どの研究も一般公開して良い水準に達していないという厳しい批判が寄せられた。本分科会が研究の成果報告ではなく、これから着手する研究テーマの発表であるという趣旨が伝わっていなかったための誤解であったが、司会を担当していた松本を中心として批判に応え、互いの認識の齟齬を埋めるべく対話を試みる学生の姿勢は立派なもので、教員の助け舟を必要としなかった。

 他方で、そうした対話が成立したのはそもそも地域住民の方々が分科会の開催に理解を示し、当日会場にまで足を運び、学生の言葉に真摯に耳を傾けて下さったからこそである。そしてその背景には、「梅や」や「たみ」が松崎という土地で時間をかけて築いてきた関係と信頼があるのだということを忘れてはならないだろう。「梅や」を運営する上での喜びや苦労、生じる課題や責任について率直に語る上山さんの言葉は、今後参与観察的な研究を進めていくであろう学生たちの心に重く響いたのではないだろうか。

 

レポート:佐々木友輔

鳥取大学地域学部 佐々木友輔ゼミ
視覚メディアと表現に関わることであれば何でも、興味・関心の赴くままに制作(作ること)と研究(書くこと)を続けられる場を理想とする研究室です。現在所属しているのは、4年の村上大樹君。視覚メディアを用いての私小説的表現について研究・実践しています。昨年度は古典的ハリウッド映画の脚本の構造を学んだり、鳥取発の地域映画制作企画に参加していました。卒業制作では短編映画を制作しています。