2020年10月22日にんげん研究会レポート

文学でもアートでもない日記との関わり方                

 2020年10月22 (木)に夏休み明け、初めてのにんげん研究会が行われました。前期は「コロナウイルスの影響を受け、オンラインで繋がることで新しく出会えたことや繋がれたこと、繋がれない状況の中で出会えたこと」について日記を書いて発表を行いました。今回は集まった100近くの日記について、一人一人が気になった日記、面白いと思った日記について話し合いを行いました。みんなが他人の日記を聞いて、見て、思うことを話し合うことでそこに何が残されているのか?何が表現されているのか?分析を行います。 

蛇谷りえさんは「日記を聞いて、読んで自分が思ったことは他人に批判をされる不安があるかもしれないけど、相手に自分の言いたいことが誤解されたとしても、ここは訂正できる場所だから誤解を恐れずにね~」と皆さんが発言しやすい空間を醸し出してくださいました。

今回は、うかぶLLCの蛇谷さんが進行役を行い、写真家の金川晋吾さん、アニメーション作家の今林由佳さんは学生と同じ立場で気になった日記について質問や意見を話しあう立場で参加されました。では、今回のにんげん研究会の様子について、発言された順にここに記していきます!

初めに蛇谷さんが竹内潔先生を指名されました。竹内先生が選んだのは渡辺大志さん「ランニング」です。この日記は、運動不足解消のためランニングをしている途中で会った友人と就職活動やゼミ、卒業論文など話したいことが積もるほどあることについて書かれています。そんな中で、ふと上を見上げた時に見た景色についても語られていました。今風に言うと「エモい」みたいな感じの景色です。竹内先生は、蛇谷さんからトップバッターに指名されて、この日記の、この描写をパッと思い出したそうです。この日記について深掘りしていこうと蛇谷さんが質問をしようとしたところ、、、竹内先生は子守中で赤ちゃんが泣いてしまい、残念ながら竹内先生の意見を深掘りすることができませんでした。蛇谷さんは、そんな出来事を笑いながら次の方にバトンタッチをしました。

次に渡辺さんは宮北温夫さんの「日本経済新聞を読んだ」を選ばれました。この日記は新聞の配達員が運んできた新聞から、コロナ・ショックにおける学生の姿について分析を行っている様子が書かれています。この日記について、渡辺さんは小難しい文章で書かれていることが印象に残ったようです。宮北さんと渡辺さんは同じゼミですがお互いの文章をみる機会がない!とおっしゃっていて、この日記が相手を新たに知ることのきっかけになっているのだと思いました。金川さんは「日記をみるとその人をしるきっかけになって自分と似たような経験をした日記をみると勝手につながった気になる」と言われていました。

次に、宮北さんはお休みだったので蛇谷さんが共に古武術を習っている中村友紀さんを指名されました。しかし、中村さんはお茶を買いに行っており、パソコンの前にいなかったようなので蛇谷さんは、山崎七重さんを指名されました。

山崎さんは音泉寧々さんの「七重と遊んだ」を選ばれました。この日記は、コロナの影響で中々会えずZOOMやSkypeを使って会っていた山崎さんと七重さんが直接会って遊んだ様子について書かれています。自分のことを書かれていることについて音泉さんは「そう思ってたんだ!意外だった!嬉しかった!」と言われていました。このことに対して、音泉さんは「人に見せる日記だから、暗いことは書かず面白いものを書くことを意識して書きました」と言われていました。

次に音泉さんは、根路銘翔以李さんの「ひとりの誕生日」を選ばれました。この日記は、根路銘さんが毎年自分の誕生日に手紙を書く習慣があり、誕生日当日は、1つ年上の未来の自分に向けてのお祝いの手紙を書いて、ゆっくり午前中を過ごして、買い物をし、夜にはお気に入りの飲み屋さんに行って、大好きなお酒を飲む1日を過ごすことについて書かれています。1人でも楽しい誕生日を過ごせる自分を誇らしく思うという日記でした。この日記について「音泉さんは習慣化されているのがすごくて、おしゃれ~」とコメントされていました。

次に根路銘さんがいないということで音泉さんが印象に残った山下紗世さんの「体温を測る」を選ばれました。この日記は、コロナウイルスの影響で毎日、体温と向き合う習慣ができたことについて書かれています。この日記について、音泉さんは「シュールで淡々とやってるんやな~」と言われていました。それに対して、山下さんは「シュールと思われると思っていなかったです。いつも記録していることを書くことで日記っぽくなるかなと思って書いた」と言われていました。先ほど、音泉さんが人に見せる日記を意識して書いたのに対して山下さんは人に見せるというよりは自分の記録を書かれていることが分かります。

 次に山下さんは増岡祐子さんの「チキンラーメンとカレーライス」を選ばれました。この日記は、にんげん研究会で声にだして読まれていない日記だったので山下さんが読み上げました。日記では、(何時でもいいから)起きたあとに食べるごはんのチキンラーメンに対して、空腹を満たすことだけが目的のこれまでの食生活がフラッシュバックし、胸のあたりがチクッと痛んだ様子について書かれていました。その後「朝ごはん」のせめてもの罪滅ぼしのために、夕食にカレーライスをつくっており、写真も掲載されていた。山下さんは、この写真が印象に残ったと言われていました。また、「(何時でもいいから)起きたあとに食べるごはん」というフレーズに対して「自分はそう書かないです。日記だからこそ自分の価値観を書いていいのでは?」と言われていました。蛇谷さんからは「日記で反省している?」と言われていて、増岡さんは「反省したくなります」と言われていました。蛇谷さんも「日清の焼そばを毎日たべて落ち込んだことがある」と言われていました。

 次に増岡さんは石本愛美さんの「ひたる」を選ばれました。この日記は、汗をかく機会がない夏の日に外に出ず汗をかくために半身浴をしたことについて増岡さんが読み上げられていました。バスタブにお湯を張るのは一人暮らし3年目にして初めてのことで、湯船の中でスマホを見たり、ゲームをしたりぼーっとする時間を、常に色々なことに追い立てられている日々の中で、意識的にゆとりを感じる時間を過ごさないといけないと言われていました。増岡さんは、「海の写真が気になって日記を読んだら自分と共通点があった」と言われてました。石本さんは「この日記は、ネタがなくて書いたものなので他人にみせるつもりがなくて恥ずかしいです…」と言われていました。

次に石本さんは今林由佳さんの「知り合いとは、オンラインで交流できるけど、知らない人とは、目の前にいても交流していいのか迷う自粛期間」を選ばれました。この日記は、緑を探し求めるウォーキング中に立派な邸宅の手をかけられた庭の緑、住人不在の庭で野生感満載の緑、公園のまばらな緑、空き地でボーボーの緑、等々。と出会い写真を撮っていると、その家の女性と目が合い、声を発することをためらいながらも、女性と会話を交わす様子について書かれています。この日記について、石本さんは「アニメーション作家だから描写するものの情景が浮かぶ」と言われていました。それに対して今林さんは「コロナウイルスの影響下で経験をしたベスト1をみんなに晒す貴重な経験だから、聞く側が何か発見できたらいいなと思ってこの日記を書いた」と言われていました。その一方で、「にんげん研究会の日記は、文学でもアートでもないが皆に晒すチャンスがある。人間らしい図々しさ。お前らしさでいい。と思いつつもそういう関係性になれてなくて脱皮できてない」と言われていました。今林さんのコメントから、にんげん研究会の日記が他人に見せるものであるが自分を出していいのか。それとも本来の自分を隠してもう一人の自分を表現するのか。葛藤している様子がうかがえました。

次に今林さんは角野綾香さんの「しっかりしたホームの駅もステキだけど、無人でちょっと寂れたホームの駅も悪くない」を選ばれました。この日記は、コロナウイルスの影響下でどこもいけない角野さんが最寄り駅から鈍行列車でどこまで行くことができるのだろう?模擬旅行に出発したことについて音読をされました。発表者は先ほど音読をした際に淡々とした感じで読まれていた山下さんを今林さんが指名しました。日記では、終点につくたびにグーグルマップで現在地を確認して、「こんなところなのね~」だとか「近くにこんなお店ある!」なんてことを調べている様子が発表されていました。今林さんは「山下さんに淡々と読んでもらったことで、文章を読んだ時の角野さんのふんわりした感じ、ワクワク感に気づくことができた!」と言われていました。今林さんのコメントから、日記を読む人を変えることで日記からにじみ出てくるその人に気づくことができるのだと感じました。

次に角野さんは、綿谷綾乃さんの「夏の成人式」を選びました。この日記は、島で行われる成人式がコロナウイルスの影響でナイトクルージングが無くなったこと、参加できない友人がいること、海に埋めたタイムカプセルも役場の人が取りに行くなど、例年通りにいかない成人式について残念だと感じながらもコロナウイルスの影響下で成人式のために動いてくれた大人たちのやさしさに触れたことについて書かれた日記を角野さんが読み上げました。この日記について、角野さんは「読むことで方言が分かった」「海の中にカプセルを埋めるって?どういうこと!?」と言われていました。これに対して、綿谷さんは「カプセルを埋めることに驚かれることに驚きました!」と言われていて、蛇谷さんは「前にお米の日記を読んだときも皆に驚かれてたよね~当たり前が皆にとっては当たり前ではないんだね」とコメントされていました。

最後に綿谷さんは、音泉さんと同様に根路銘さんの「ひとりの誕生日」を選ばれました。(日記の内容は上記を見てください)この日記について、綿谷さんは「誕生日は誰かに祝ってもらうことが幸せだと思ってたから初めての感覚、自分のためにという考え方は素敵な考え方」と言われていました。それに対して根路銘さんは「自分は実は強がりで、誰とでもやれる子と比べると祝われることは少ないけど、寂しいと思うのは違うと思っていて、このことを日記に書くことで、自分をさらけ出して全てを認めてもらいと思って書いた」とおっしゃっていました。それに対して、今林さんや蛇谷さんは「それをさらけ出すことを大事にしてもらいたい!」とおっしゃっていました。

今回のにんげん研究会では、前回とは違った面白さや緊張感があったように思います。前期は、予め発表者が決まっていてその発表に対してコメンテーターの三人がコメントをするかたちでした。そのため、発表者は緊張しながら自分の番を待っていたのに対して、聞く側はカメラをオフにしてご飯を作りながら聞いたり、湯船につかりながら聞くなどラジオっぽい感覚で日記を聞くことが可能でした。しかし、今回は次に誰が指名されるのかわからない中での話し合いだったので、次に誰が指名されるのかわからない緊張感や自分が指名されるかもしれないドキドキ感がありました。また、赤ちゃんが泣きだしたり、お茶を買いに行っていてPC前にいない出来事など前回とは違った面白さのあるにんげん研究会だったと思います。次回はどんな出来事が起こるのか楽しみです!

また、今まで溜まっていた日記を改めて読み直したことで、何を皆さんが意識して書いていたのかがみえてきました。日記を他人に見せるということで、楽しい日記、それを読んで相手に発見があるような日記を心掛けて書いている人もいれば、反省のようなものや日々の出来事、自分を表現することを書いている方など、にんげん研究会の日記は他者を意識して書く人や少しだけ意識している人、意識しない人など様々な書き方が話し合いからみえてきました。また、それを受け取った読み手は、その日記に共感をしたり、その人の出来事と自分と重ね合わせたり、自分にとっては当たり前ではない世界が見えてきたり、様々な受け取り方があることも分かりました。私も日記を書くうえで「どこまで自分のことを日記に書いていいのか?でも日記とは自分のことを書くようなものの気もする…」と葛藤しながら書いているので皆さんの意見や考えを聞くことで日記との関わり方を模索することができました。今回は、皆さんのにんげん研究会での日記との向き合い方がみえてきたように思います。次回の話し合いでも、新たな日記との関わり方と出会えることを楽しにしています!

鳥取大学 稲津ゼミ 3回生 志茂春菜