にんげん研究会レポート「目で読む、口で読む -「声」から暮らしをのぞく-」

 2020年7月16日(木)に、第3回にんげん研究会(以下、にんけん)が行われました。今回のにんけんでも鳥取大学の学生のみならず、大学外の方の参加もありました。今年のにんけんは「コロナウイルスの影響を受け、オンラインで繋がることで新しく出会えたことや繋がれたこと、繋がれない状況の中で出会えたもの」を日記として発表をしています。書いてきた日記を毎回数名の発表者が読み上げて、「うかぶLLC」の蛇谷りえさん、写真家の金川晋吾さん、アニメーション作家の今林由佳さんの3名が質問や感想を言う形で進めています。前回は9名の学生が各々の日記を発表しました。

今回は、9名の学生以外にも、鳥取市のわらべ館で働かれている高橋智美さんからも発表がありました!私は日記の発表者でありかつ、このレポートの報告者という2つの立場でにんけんに参加していたところ、「声」というキーワードに着目しようと思いました。

日記の文章に、一人一人の声が添えられることでその人の暮らしが見えてきていたのではないかと考察してみました。では、10名の発表者の内容とそれに対するコメンテーターの方たちのリアクションを記していきたいと思います!

 最初に発表されたのは、音泉寧々さん。日付は2020年7月16日、タイトルは「七重と遊んだ」です。友人である七重さんと4か月ぶりに遊んだ音泉さんは、以前から遊ぶ約束をしていてもコロナの影響で中々会えずZOOMやSkypeを使って会っていた2人はようやく直接会って遊ぶことに。少し前にバズったよく飛ぶ飛行機を2人で学部棟の階段で飛ばして遊んだ後は、「ひとつ屋根のした」でご飯を食べ、その後、七重さんのおすすめのホラー映画を見て遊んだそうです。とにかく七重さんと遊べて楽しかったということが伝えられました。

この発表に金川さんは、「ですます調」で書くことで発表するっていう気持ちがありそうとコメントされており、そのコメントに付け加えて今林さんは、「(ですます調で書くことで)書き捨てるのではなく、書き綴っている感じから七重との関係を伝えたいという思いが伝わってくる。」とコメントされていました。

 次に発表されたのは、池田真都さん。日付は2020年7月16日、タイトルは「パソコンとアナログ人間」です。コロナ禍で授業形態がオンライン授業に変わり、授業の出席確認もインターネット上でのレポート提出へと変わった中で、課題を提出しようとしたらサイト内の別のボタンを押してしまって、レポートが全部消えてしまった池田さん。再度書き直そうにもやる気は出ず寝落ちしてしまい結局その日のレポート課題は出せなかったという日記でした。

発表が終わると同時に笑みがこぼれる3人。どうやら池田さんの声がいい声過ぎてハマったようでした。「読み手が変わると話変わる!なんでそんなにいい声なの?」(今林さん)、「一時保存すればよかっただけの話だけど、話の膨らませ方、メリハリのつけ方が上手!」(蛇谷さん)とのコメントがあった後、再び、今林さんからは「アナログ人間なのに伝え方(読み方)が抑揚とかアナウンサーっぽさがデジタル。朗読とのセットでアートって感じ。」続けて金川さんからは「何かやってたの?」との質問がなされたところで、池田さんは放送部に所属していたということが明らかとなり、これにコメンテーターの方々は「あ~」と納得された様子でした。

 次に発表されたのは、石本愛実さん。日付は2020年6月7日、タイトルは「友人とわたし だいたい第300話」です。以前から訪れたいと思っていた燕趙園に友人と出かけた石本さんは、行っている最中の電車の中で友人とたい焼きはどこから食べるかといった話で盛り上がる中、燕趙園に着きました。燕趙園では庭園建築の写真を収めはしたが、建築物やそのスケールを確かめる程度の友人や石本さんの写真しかなかったことが心残りであったそうです。土産物店では2つセットの蓮華を割り勘して買ったり満足した1日だったという日記でした。

この発表に今林さんは、「石本さんの日記は昔の本のような主観を除いた景色を描く書き方、波のような書き方だね。」とおっしゃっていました。石本さんの「写真を撮る目的だったのに友人との過ごした時間・会話が大事だったことを明記したほうがよかったのか」という質問に対して、金川さんは、「もう伝わってるよ。小説のようにそれは描写で伝わってきている。」といった会話が繰り広げられていました。

 次に発表されたのは、角野綾香さん。日付は2020年7月16日、タイトルは「宝くじが当たったらグランドピアノほしいな」です。コロナでの自粛期間の中で家にいる時間が増え、ピアノを触る時間が増えたそうです。角野さんには思い出の曲が2つある。1つはベートーベン作曲のピアノソナタ第8番「悲愴」、もう1つはドビュッシー作曲のピアノ組曲版画3、「雨の庭」。悲愴は、『低く重い低音から始まり、主題も高音に上がっていったかと思えば、また低音から上がりなおすところから、未来に向かっていこうとしたらまたどん底に落とされたような旋律のイメージ』、雨の庭のイメージは、『フランスの雨降る庭で、最初はざあざあぶりなのが次第に止んで虹が出るまでを表しているイメージ』がある。弾きたい曲はたくさんあるけれど、全然弾けなくなっているから自粛期間中に練習したいという日記でした。

この発表に蛇谷さんは、「私はどこに落としてきたんだろうこの気持ち…。」とおっしゃり、今林さんは、「耳から聞いているのに少女漫画を思い出させるような…角野さんの読み方がさらにね…。」とおっしゃっていました。

 次に発表されたのは、福田健太郎さん。日付は2020年7月16日、タイトルは「サツマイモ 苗植え・水まき・手伝い」です。サツマイモの苗を分けてくださる知り合いのもとへ出かけ、根を受け取って、畑に帰り、事前につくっておいた畝にマルチシートに穴を空け、苗を植えていく。一気にサツマイモ畑に完成した後、手伝ってくれた方のニンニクの収穫の手伝いをする。ニンニクの香りが漂ってきてBBQをしたいなといった感情が沸き上がってきたようです。コロナの影響がなければ、農業は経験していなかったと感じる。何かが変わる瞬間に立ち会えることができ、小さな変化に気付けるようになった農業は、案外、性にあっていたという日記でした。

この発表に今林さんは、「カメラがぐるぐる回っているような現実の人間を移すカメラ、五感を伝えるカメラが交互に出てきているのが素敵」といったコメントをされました。

 次に発表されたのは、志茂春菜さん。日付は2020年7月13日、タイトルは「ご飯の記録」です。志茂さんは7月8日から12日までの自身で作ったご飯について書かれていました。『7月8日チャプチェ、9日きのこと鮭のホイル焼き、10日鮭ときのこの炊き込みご飯、11日親子丼、12日たらこスパゲッティ。』自粛生活で部屋で過ごす時間が多くなってしまった中で、授業を受ける時もレポートを作成する時もバイトをする時もずっと同じイスに座っていると、部屋に閉じ込められた感覚があり、心が窮屈に感じてしまう。その生活の中でも心が解放される時間がご飯をつくる時だと気付いたそうです。自身で作ったご飯の写真を家族のLINEグループに送ると頑張ってるんだねと大喜びをされたという日記でした。

この発表に金川さんは、「料理名が羅列されているのがいいね。しかも具体的な料理名で声が伴って聴くことができるからもっと聴ける。」今林さんは、「日記が同じテンポで進み呼吸をしているようで肩の力が入っていなくてすごくいい。」とコメントされていました。

 次に発表したのは、私、綿谷綾乃です。日付は2020年7月8日、タイトルは「じいやばあば と 私 を繋ぐお米」です。お米が無くなってしまった私は、祖父母にお米を欲しいという旨の電話をかけた。 私「米が無くなっただいぞ送ってごさんかえ(米が無くなったんだけど送ってくれない)?」 祖母「はーい分かったよ。イチジクとかぼたもちとか、あとージャガイモと玉ねぎもあっだいぞ(あるんだけど)いらんかえ(いらない)??」 私「ほしい!そい(それ)も送っちょって(送ってて)!」 祖母「はいよー。」結局お米を頼んだだけなのに、大量の仕送りもついてきた。コロナで安心して会えないけど早くじいやとばあばのところに安心して顔を見せに行きたいという日記でした。

この発表に今林さんは、「方言が生で聞けて嬉しい!出身はどこなの?と質問され、私は島根県ですと答えると、おばあちゃんとの会話でリアル方言聞けて嬉しい」とコメントされていました。

 次に発表されたのは、根路銘翔以李さん。日付は2020年6月27日、タイトルは「ひとりの誕生日」です。根路銘さんは毎年自分の誕生日に手紙を書く習慣があり、誕生日当日は、1つ年上の未来の自分に向けてのお祝いの手紙を書いて、ゆっくり午前中を過ごして、買い物をし、夜にはお気に入りの飲み屋さんに行って、大好きなお酒を飲む1日を過ごしたようです。1人でも楽しい誕生日を過ごせる自分を誇らしく思うという日記でした。

この発表に今林さんは、「いつから手紙を書くようになったの?」と質問をされると、根路銘さんは、「小学5年生の時に見た未来日記以来ずっと書いている。」と答えていました。今林さんは「根路銘さんの日記は日記帳をさかさまにして読むような、自分の心の裏側を紡ぎだした感じだ。」とコメントされていました。

 次に発表されたのは、中村友紀さん。日付は2020年7月15日、タイトルは「さっきあったことから書き始めたこと」です。中村さんは、アートマネジメント講座の中で行われた受講者の自己紹介の中で緊張して手汗をかいてしまい、勢いで口が滑り、終わってからは気持ち悪さを感じるほどの緊張を覚えたそうです。中村さんは、自分のことを怖がりだと言いました。ジェットコースターもお化け屋敷も、人と話すことも、不安だけど、自分で慣れて乗り越えるしかないという日記でした。

この発表に蛇谷さんは、「どこに置いてきたかな怖がりな私~~~」と話されていました。金川さんは、「自分との対話をしていて一歩距離を置いて考えているね。」とコメントされていました。

 最後に発表されたのは、高橋智美さん。コロナでわらべ館が休館になったこともあり、今まで開けたことのなかった棚を開けてみるとびっしりと新聞記事が貼られたスクラップ帳を見つけたそうです。さらに資料を探してみると、旧図書館の設計者の情報、図書館分類法を考案した森清が職員として在籍していたことを発見したそうです。旧図書館にあるネガフィルムを機器に通してスキャンをしてみると、50年前の図書館がモニターに現れ感激した高橋さんは、900枚ものフィルムを見続けたそうです。旧図書館のことを知っている方が健在のため、もっと話を聞いていきたいという日記でした。

この発表に蛇谷さんは高橋さんに「普段日記は書きますか?」と質問したところ高橋さんは、「日記を普段描くことはせず、小学生の頃は先生が見てくれて反応があったから自分のためには書かなくなった」という回答に対し今林さんは「高橋さんにとっては人とのコミュニケーションをとるための日記だったんですね」とコメントされていました。

 

 10名の日記はいかがでしたか?10名の生活、物事の見方・捉え方、文章の書き方、読み方が全く違っていて非常に興味深かったです。今回私は、発表者であり報告者でもあったため、発表への緊張と、コメンテーターの発言を必死にメモをしていたので、前回のようにリラックスして「ラジオっぽく」聞くことはできず、どういったことを報告書に書こうか考えていました(笑)前回は「ラジオっぽい」ことが議論されていましたが、今回はタイトルにある「読む」という行為について、「声」をキーワードに考えてみたいと思います。

「目で読む」ことに関連したコメントに注目してみると、「書き捨てるのではなく書き綴ることで友達との関係が見えてくる」、「友達との関係性を描写で伝える」、「2つのカメラがぐるぐる回っているような描写」、「日記を逆さまにしたような表現」といったコメントがありました。聞き手自身がまず文章を読み、その文章から発表者がどのような人物か想像され、発表者自身の暮らしが見えてきていました。

「口で読む」ことに関連したコメントに注目してみると、声質や読み方に特徴があることから質問が広がり過去のことが明らかになったり、「耳から聞いているのに漫画を思い出させるような日記」、「同じテンポで進み呼吸をしているような日記」、「方言を生で聞くことができる日記」というコメントがありました。こちらは発表者が自身の日記に「声」を添えることで聞き手が発表者の見ている世界や暮らしを覗いているような感覚を持たせているように感じました。

同じ「読む」という行為でも目で読むのか、あるいは、口でも読むのかという違いで聞き手に与える印象は変わってきます。日記原稿を目で読むだけでも、その人を想像することはできますが、そこに「声」が添えられたことではじめて見えてくるその人の過去や暮らしもある、そんな気付きを得られた第3回目のにんけんでした。次回のにんけんではどのような発見があるのでしょうか。次回は、8月20日(木)に開催されます。興味のある方はぜひお越しくださいませ!

鳥取大学 稲津ゼミ 3回生 綿谷綾乃