分科会「まちづくりについて」inどれみ  

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 松崎駅から「たみ」に至る道程の途中にある「どれみ」。住民の健康サポート、観光情報の提供、移住・定住、職業相談の機能を備えた平成
304月にオープンしたばかりの新しい施設である。本分科会では、岸野祐二郎リーダーのもと、鳥取大学生2名、立教大学生5名の計7名の発表が「どれみ」で行われた。

 本分科会は、「まちづくりについて」を大きなテーマとして組織されたが、「伝統工芸」「道の駅」「商店街」「謎解きイベント」「演劇」「祭り」「現代美術」と個々に扱っているジャンルはさまざまであった。そこで交わされた議論は以下のようなものである。第一に、「まち」に人々の関心をどのように持たせることが可能か、という問題である。都市部と田園地帯、郊外や地方都市など、それぞれの発表で対象とした「まち」の条件や抱えている問題はさまざまであったが、「まち」に対して関心を持たせることは、いくつかの発表において共通の問題として浮上した。「越前漆器」や「しゃんしゃん祭り」といった伝統文化を用いた事例を分析するもの、また、「演劇」や「現代美術」などアートを活用とした事例を分析するものなどがあった。前者では、伝統文化に対して若者たちがどのように関心を持ち、彼らを引き込む仕組みをつくることが出来ているかという点が議論された。そして、後者では、「演劇」や「現代美術」が持つ「前衛志向」と、「まちづくり」のために求められる「わかりやすさ」との葛藤が議論された。

二つ目に、「まちの再発見」という問題が議論された。「謎解きイベント」は、「リアル脱出ゲーム」などのように、それぞれが主人公となり謎解きを体験するイベントだが、今回の発表で紹介されたのは、謎解きを通じて実際の「まち」を歩き回るイベントである。第一の議論ともつながるが、実際のまち歩きを通じて、新しい「まち」を知る導入にもなるし、すでに知っている「まち」を再発見する効果もある。リピーターを獲得することの難しさという課題も挙げられていたものの、アニメ聖地巡礼ポケモンGOによる「まちの再発見」などと比較しても、運営側がより主体的に仕掛けることが可能な点において「まちづくり」としての可能性があり、別の「まち」にも応用可能な事例として前向きに議論された。

 三つ目の議論として、人々が集まる場所をいかにつくることができるか、である。田園地帯の「道の駅」や都市部の「商店街」がその事例である。前者は、都市と都市を結ぶ交通の要所ではない場所の「道の駅」を事例に、農産物の販売を通じたコミュニティの形成について語られた。後者は、全国的に空洞化がすすむ商店街のなかで、現在も活気のある「ハッピーロード大山商店街」を事例に、13都市と直接契約によって商品を集める「とれたて村」など独自の試みが紹介された。ひとびとの集まる場所の創出は、本分科会に共通した問題でもあり、他地域の事例との比較を通じた議論が交わされた。

 翌日の井戸端会議を通じて、本分科会は「まちづくり」というよりも「人とまちとの関わりあい」に焦点が当てられた発表が多く、その中で「地域資源」を「再利用」や「再発見」するものと、外部から「新たな資源」をもたらすことで地域の活性化を試みるものの二タイプあるとまとめられた。いずれの発表も、主催者への取材や参与観察を行ったものが多く、文献資料からは把握できない情報を含む点において有益であった。一方で、先行研究を踏まえ、理論的なフレームをより意識することで、事例紹介にとどまらない分析や考察へと至ることが今後の課題といえるだろう。初日の発表会では、地元の一般参加者からも発言があり、松崎で10年続く朝市「三八市」についての紹介があった。「まちづくり」をテーマに研究する学生たちと地元住民が、松崎の「まち」について語り合う貴重な機会となった。(報告:筒井宏樹)